色覚検査 じわり復活

 2017年2月21日の朝刊「話題の発掘 ニュースの追跡」より、「色覚検査 じわり復活」の引用。
眼科医会「支障ある職業」羅列 文科省「奨励」通知 「差別助長」当事者団体は反発
 かつて小学校の健康診断で必ずあった色覚検査。「異常」と判定されても、日常生活にほぼ支障がない一方、偏見や差別の原因になるため、2003年から希望者のみとなり、ほとんど実施されなくなった。ところが14年、文部科学省が検査の「奨励」を通知したことを受け、再開され始めている。「希望者だけ」を掲げてはいるものの、学年全員が受診した小学校もある。当事者らは「事実上の一斉検査の復活だ」と猛反発している。
(三沢典丈)
かつて人権侵害批判で下火に
 ヒトの目は通常、赤、緑、青の光を主に感知する三種の細胞を備えているとされるが、この細胞の働きが通常と異なり、赤と緑など特定の色の組み合わせが見えにくい人もいる。大半が遺伝性で治療法はなく、日本人の男性で4.5%、女性で0.2%の割合で出現する。ただ、日常生活で困ることはないという。
 制度的な色覚検査は、日本では1916年、旧陸軍の軍医だった石原忍氏が徴兵検査用に石原式色覚検査表を開発し、使用したのが始まり。異常と判定されると職務が制限された。
 学校でも20年から検査が始まり、戦後も58年の学校保健法で継続された。検査は当初、就学時と全学年で実施。90年代半ばからは、小4の1回だけとなった。かつて「色盲」などの呼称から「色が見えないのでは」と偏見を受けた人は少なくない。近年まで医師、薬剤師、教師、バスの運転手などの職業のほか、理系大学への進学も制限されるなど、就職・進学でも差別を受けた。
 「人権侵害」という批判から、厚生労働省は2001年7月、労働安全衛生規則を改正し、就職時の色覚検査を廃止。業務の必要から色覚を調べる場合も「各事業場で用いらている色の判別が可能か否か」にとどめるよう指導した。
 これを受け、文科省は02年、学校保健法施行規則を改正。色覚検査は小中学校などの健康診断で必須事項から外れた。当時の局長通知では、希望者が検査を受ける余地は残したが、本人と保護者の事前の同意を必要とし、プライバシー保護も厳格に求めた。
 現在も就職時に色覚検査をする職業は航空機パイロット、鉄道運転士、海技士、警察官、海上保安官、自衛官などで、軽度なら採用を認めるケースもある。
 ところが、日本眼科医会(高野繁会長)は13年、受診者の聞き取り調査から約500件の「色覚に係わるエピソード」を得て発表。子どもたちに「進学・就職に際して色覚に関するさまざまな問題」が起きているとし、文科相に希望者への検査実施を強く求めた。
 これを受け、文科省は14年4月、児童や生徒が「自身の色覚の特性を知らないまま不利益を受けることのないよう(中略)より積極的に保護者等への周知を図る必要がある」と新たに通知。検査は希望者のみとしながらも、6月には各自治体に「進学・就職に際して(中略)大切な検査」と記した保護者宛ての検査申込書例まで示した。
 これに対し、当事者団体である「日本色覚差別撤廃の会」(井上清三会長)は「言われているほど、就職で色覚による問題は起きていない。通知は過去、差別の原因となった一斉色覚検査の復活につながる」と強く反発。昨年3月、一斉色覚検査再開への反対声明を発表し、併せて14年通知の撤回を求めている。
希望者対象でも全員受診の例
 文科省のこの通知は猛威を振るっている。
 「撤廃の会」によると、関東地方のある自治体では15年、公立小学校の保護者たちに「色覚検査の実施について」という文書を配布。そこには「(就職の)制限を設けている企業等」があり、「本検査を受けられることをお勧めします」と記されていた。
 その結果、児童の約74%が受診した。中には全員が受診した学校もあった。ある学校では、あらかじめ検査日を定め、校内で一斉に実施されたという。
 「撤廃の会」の荒伸直副会長は「心配した通りだ。文書は学校長から全保護者に向けて配布されているため、希望者のみと言いながら、一定の強制力と同調圧力が加わった」とみる。
 この会の調査では、同様の方式で検査をした自治体は北海道から中国地方まであり、一部は中学、高校でも実施されていた。
 荒副会長は「就職を検査の理由としているが、就職時、色覚による職業制限がまだあるとは限らない。子どもに不要なショックを与えるだけ」と疑問視する。
 この会の指摘に対し、文科省健康教育・食育課の担当者は「学年全員が受診したとしても、希望者ならば問題ない。強制的に受診させている学校があれば問題だが」と答えつつも、実態調査はしていないという。
 眼科医会の宮浦徹理事も「学校が過剰反応して、受診が強いられることはまずいが、受診率が低い地域もある。強制とは言えないのではないか」と語る。
 一方、眼科医会の検査拡充に注ぐ熱意は文科省への要望にとどまらない。15年には、ポスター「色覚検査のすすめ!」を眼科医や病院、学校に配布。「色覚の異常の程度による業務への支障の目安」とし、多数の職業名を列挙している。
 荒副会長は「色覚当事者に、これらの職業に就けないとの印象を与える。検査結果を個人の職務遂行能力の判断に一律に使用することは、01年の厚労省の規則改正の趣旨にも反している。時代錯誤の極みで、当事者に対する職業差別を助長する内容だ」と憤る。
 「ポスターが参考にした論文では、列挙した職業について著者が『独断的』と断っており、内容の真実性も乏しい。正当な根拠なしに色覚当事者を排除することは、人権上許されない」
 これに対し、宮浦理事は「具体的な職業名を挙げることで関心が高まった。進路指導もやりやすい」と話し、掲示を続ける構えだ。
 訴えに耳を傾けようとしない文科省と眼科医会に対し、荒副会長は「かつて学校の一斉検査で受けた嘲笑や侮辱は、一生忘れらない心の傷。差別を恐れ、声を上げられない当事者が大勢いることに目をつぶっている」と批判する。
 NPO法人「カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)」の伊賀公一副理事長は「色覚が異常と判定される人は、色の見え方が違うだけ。その理解が乏しい」と指摘する。同団体は色が見分けやすく改良した製品などを認証する活動に取り組んでいる。
 伊賀副理事長は「多数の人が持つ色覚で社会の色彩環境が形成されたため、少数派の色覚を持つ人には分かりにくい色づかいがあるだけ。おかしいのは、色の見え方が異なるだけで『異常』とか『能力がない』とみなす社会だ」と訴える。
 「なぜ、現在も色覚で職業制限があるのか、鉄道信号が見分けにくい人がいるのなら、見分けやすい色や形に変えればよい。眼科医も『誰にも問題がない色づかい』を社会に提案するなど、むしろ職業制限をなくすような色づかいを勧める働き掛けをしてほしい」

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