コーチングの考え方に立った「ほめ言葉」

 『楽しい算数の授業』2011年8月号より、松原郁弘(福岡県新宮町立新宮東小学校長)先生の論文。

1 コーチングについて
(1)コーチングとは
 コーチングとは「相手の目標達成を動機づけるコミュニケーション手法」と言われる。「自分がどうなりたいか、どうしたいか」という目標をはっきりさせ、その実現に向けての自発的な行動を引き出すのである。
 相対する言葉としてティーチングがあるが、ティーチングは教師が答えをもっていてそれを子どもに教える営みである。それに対してコーチングは子ども自身がもっている答えを教師が引き出す営みと考えることができる。

コーチング
(2)”コーチングの考え方に立つ”上で
 コーチングでは、次に2点に留意したい。
①「子どもは自分の内側に答えをもっている」という考え方に立つこと。
②「子どもはパートナー(教師、友達、保護者など)がいる方が自分と向き合いやすい」
 ただ、これらの前提として子どもが「知識、技能が一定の水準に達していること」「向上心をもっていること」「思考力、判断力、想像力、表現力などが一定の水準に達していること」が必要である。そうでない場合は、ティーチングしてからコーチングに入る必要がある。
(3)コーチングのメリット
 コーチングには「子どもが考え、自ら答えを導き出していくため、困難な問題と向き合っていこうとする積極的な考えを身につけさせることができる。」「子どもが自己の潜在的な能力を発揮することができる。」「セルフイメージを高め、周囲に流されない自分なりの考えをつくりあげていこうとするようになる。」など多くのメリットがある。

2 コーチングの考えに立った”声かけ”
 コーチングをいかした声かけの一つとして次のような流れを挙げることができる。
 手順1 聴く。
 手順2 承認、共感する。
 手順3 区別する。
 手順4 多角的な視点から質問する。
 手順5 選択肢を提示したり考え方の新しい視点を提示したりする。
 手順6 小さな成功をほめる、励ます。
 この流れに沿った算数の時間の”声かけ”の具体例を下の文章問題を解いている児童(3年生)を想定して挙げてみたい。
 1本60円のジュースを6本、1こ40円のオレンジを6こ買いました。何円はらえばよいですか。
※ジュースの代金とオレンジの代金を別々に求めてもいいのだが、「ジュース1本とオレンジ1こ」を1セットの100円とし、それを6セット買うという見方もできるようにすることを意図している問題である。
手順1 聴く。
 ア 鉛筆が進んでいる子どもに→「そのまま、自分で考えていけるみたいだね?」
  ※自力解決ができそうば場合は、考える時間を確保して見守る。
 イ 鉛筆が止まっている子どもに→「その問題どう?分からないところがある?」
  ※ここで、解決の糸口を見いだせていない場合、例えば問題の読み込みで立ち止まっている場合などには、例えば分かっていることと求めることにアンダーラインを引かせるなどのティーチングを施す。そして、コーチング的な声かけで対応できそうになったら手順2に進む。
手順2 承認、共感する。
 「60円のジュース6本を60×6という式に表せていますね。」
手順3 区別する。
 (60×6=360 40×60=240 という式とジュース6本、オレンジ6この絵図とを照らし合わせながら)
 「60と40は何の数ですか?6は何の数ですか?」
手順4 多角的な視点から質問する。
 (ジュース等の絵図を指しながら)
 「今、あなたはジュースの代金とオレンジの代金を別々に求めていますね。他の求め方が考えられませんか?」
手順5 選択肢を提示したり考え方の新しい視点を提示したりする。
 (ジュースとオレンジを別々に表した絵図とジュースとオレンジを1セットに表した絵図を提示しながら)
 「今あなたが作った式はどちらの絵図に合うかな?」
 「ジュースとオレンジを合わせて6ずつ買ったことを表す新しい式が作れませんか?」
手順6 小さな成功をほめ、励ます。
 「ジュース60円とオレンジ40円、合わせて100円を6こという新しい考え方ができましたね。」

3 「ほめ言葉」となる声かけ
(1)授業の流れの中で
 上に述べたコーチングの考え方に立った”声かけ”の中で、「ほめ言葉」となるのは、手順2及び手順6の声かけであろう。
 手順2では、子どもが自力解決に取り組んでいるところで、とにかく子どもの頑張りを見だし、受け止め、よさを教師の言葉で表してあげるものである。
 手順6では、友達の考えや教師の助言をもとに新しい考えをつくりだしたことに対して、その過程や結果をほめるものである。
(2)肯定的な言葉で
 ”ほめ言葉”は子どもの長所を指摘する温かい言葉である。学習指導においては子ども一人一人の課題を教師は把握しておく必要があり、ややもすれば子どもの課題をあからさまに声に出してしまいがちでもある。コーチング的な声かけを行う際には、意図的に”肯定的な言葉”を使うように努めてみることが大切である。いくつかの例を挙げてみたい。
・すぐに消しゴムで消し考えをまとめきれない。→柔軟で多様な考え方ができる。
・考えをなかなか発表せず、消極的。→「石橋をたたいて渡る」慎重派。
・解き終ったら「ハイ、ハイ!」と言ったり友達の発言中に割り込んだりする。→理解が早い。無邪気である。積極的である。

4 コーチングの考え方に立った「ほめ言葉」が生きる条件
(1)教師自身の状態
 口先だけのほめ言葉は子どもに伝わらない。声かけをする教師自身の心の状態が安定していることが大切である。具体的には次のような姿を保っていたい。
・教師自身が己の感情の状態を理解し、リラックスしている。
・子どもの感情に共感することができる。
・子どもの考えを承認し、否定、批判しない。
・笑顔で子どもに接する。
(2)教室の雰囲気
 いわゆる”支援的風土”といわれる雰囲気に溢れている教室である。具体例をいくつか挙げてみたい。
・先生から友達から愛され受け入れられる雰囲気がある教室
・喜び、苦しみ、悲しみ等を共有し合える雰囲気がある教室
・失敗が許される教室
・自主性が尊重される教室

5 コーチングの考え方に立った「ほめ言葉」をかけることの”よさ”
 ほめ言葉をかけられた子どもは、次にような積極的な姿が見られるようになる。
・子どもが考え、自ら答えを導き出していく中で、困難な問題に向かっていこうとする積極的な構えが見につく。
・自己の潜在的な能力を発揮できる。
・セルフイメージを高め、周囲に流されない自分なりの考えをつくりあげていこうとするようになる。
・他者とのコミュニケーションを円滑に進めることができるようになる。

6 友達同士の「声のかけ合い」や「セルフコーチング」に向けて
 前ページで示した手順3から5までは、子どもたち相互に考えを出し合わせる、授業における”集団解決”の場として考えることもできる。教師がいつも声かけするのではなく、学級集団の質を高めていくように心がけたい。
 また、手順2及び6は教師の専門的な知見からの的確な声かけが大切(子どものセルフイメージを高揚させる)であるが、子ども自身が今の自分の状況を第三者的な立場から眺め、自己肯定感をもち続けながら学習を進めるといったセルフコーチングもできるように導きたいものである。
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素朴な疑問

素朴な疑問があります。 この論文(?)は昔から普通に実践されてきた事で、取り立てて何という事もない、当たり前の事しか書かれていませんが、わざわざ成文化して発表する意味があるのですか?  確かに「コーチング」という言葉は新しいかもしれませんが、概念も実践も昔からあったものをあたかも自分が初めて実践したかのよう言葉だけかぶせて発表するなんて、「他人のふんどしで相撲を取る」というか、「盗人猛々しい」というか。 書く方も書く方なら、それを掲載する雑誌社もどうかしてますね。

これが、論文の全文ではないでしょうが、これを読む限りでは、筆者は数学をきちんと勉強しているとは思えませんね。 また算数教育においても重要な部分が欠落しているようです。

数学において最も大事なことは定義です。 定義が無ければ何も始まりません。 算数は数学の手前の初歩的なものとは思わないでください。算数をきちんと教える、学ばせるという事は子供の論理的思考の基礎を築くという事なのです。
 
例えば、小学校1年生で、「りんご3ことみかん2こではどっちが多い?」と聞けば、そんなの常識でわかるでしょ、と思うでしょう? ところが違うのです。 どっちも多い、とか、どっちも少ないとか、答えがわからない子がいるのです。 それは子供が悪いのではなく、先生が「どっちが多いか」という言葉の定義をきちんとしやらなかったからなのです。 日本語は表現が曖昧なので、よけいにきっちり定義づけする必要があります。 では、「どっちが多い」という言葉はどう定義しますか?   りんごとみかんを対面させるようにそれぞれ1列に並べます。 1個と1個を1対1対応させていき、余った方が多いと定義づけます。 りんご3個とみかん2個ならば、1対1対応させていくとりんごが1個余るから、りんごが1個多いという事になります。  おはじきで学習する時も、ただ、見て確認させるだけでなく、実際に1個と1個を手で押さえて、あるいは線を引いて1対1対応を体感させる事が大事です。  この1対1対応の考え方は後に集合論や写像へと発展していきます。  教師の子供への取り組み方次第で小学校1年生の時から落ちこぼされていくのです。
怖いとは思いませんか?

話がそれたので、元に戻します。

とりあえず、定義はきっちり理解し、ある程度掛け算の文章題も解けるようになったクラスという設定ですね。
文章題が与えられ問題に挿絵もついているようですね。
しかし、どういう授業の流れかはわかりませんが、いきなり式を書かせているようですね。 これでは、せっかくの子供たちの思考も硬直してしまうでしょう。私なら、問題文から読み取った条件を絵(図)にかかせます。 問題に挿絵があるからいい、ではないのです。文系の先生方はどうも具体的操作を軽視する傾向にあるようですが、具体的操作は脳の思考回路のスイッチを入れ、解決への手掛かりを示してくれます。  高校の数学を思い出してください。 一見複雑そうな問題も条件式をすべて書き出すことで、解きやすくなったでしょう。  小学校の算数も同じなのです。 ジュースを表す縦長の長方形が6個、それぞれ60円と書き込みます。 オレンジを表す円が6個、それぞれ40円と書き込みます。 そして求めるものが何かを考えます。  私のクラスでは日常的に文章題は絵に変換して考えさせていましたから、問題文を読んで鉛筆が止まる子はいませんでした。もちろん、絵をかいて解き方はわかっても式が立てられない子もいました。そんな子には「式は算数の言葉だよ。今考えた事を算数の言葉に置き換えてごらん」と言って促します。 もしかしたら、60+60+60+60+60+60=360などと出してくるかもしれませんね。 意図したものと違っても、これはこれでちゃんと解答になっています。  そんな場合には、「かけ算」の定義を思い出させ、60×6=360へと導けばよいのです。 否定するのではなく、何回も足し算を繰り返すのは大変だから、計算間違いや書き落としを防ぐためにかけ算の考え方を使おうという風に。

それから筆者は、60円のジュースと40円のオレンジを組み合わせて100円であることに着目し、100×6=600という解法に非常に執着しておられるようですね。もちろん研究授業では確かに見栄えがしますし、子供の側から提示されれば、それだけで素晴らしい授業だったとの評価を頂けそうですが、60×6+40×6=600というのが定義から導かれる普遍的な解法であるのに対し、(60+40)×6=600というのは、たまたま条件が満たされたために成立する計算の工夫であることを認識しておくべきでしょう。
いずれにしても、子供たちが習熟レベルに達した場合には、色々な解法を考えさせることは有意義です。

これはコーチングの論文であって、算数教育の論文じゃない、とお叱りを受けるかもしれませんね。  では、声かけについて一つだけ。  鉛筆のとまっている子に、「その問題どう? 分からないところがある?」という声かけ、これは愚の骨頂です。  動作が止まってぼうっとしている子供はどこが分からないのかが分かってないのです。
 間違った事が書いてある訳ではないけど、何とも褒めようのない論文ですね。これから教育実習に行く人や新任でどうしたらいいかパニクっている人には参考になるかもしれないけど、しっかり子どもと向き合って1~2年も経てばこの程度の事は経験から体得すると思いますけどね。 多分、多くの先生方も「こんな当たり前の事、あんたに言われたくね~よっ」って思ったでしょうね。
でも、口には出せませんね。  教員の世界は狭いもの。校長の耳に入って、辺鄙なところに飛ばされるのは嫌ですからね。
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